<本文中一部抜粋>

「え?」
 本来であれば久しぶりの顔。ヒズボラに拉致されて拷問の憂き目にあいそうになった所を助けて貰ったという、個人的にはあまり思い出したくない話しだが、それでも平穏な本拠地で会ったとなれば、親しみに顔が和むというものだ。
 だが、開口一番告げられた言葉は、ロックの緩んだ顔を引きつらせるには十分のものだった。

「金、払うですだよ」

 叩かれた扉の向こう、ラグーン商会入り口に立っているたのは、三合会の張の手配で顔を合わせた逃がし屋の一人、シェンホアだった。艶やかな黒髪がチャイナドレスの肩からさらりと零れる。掻き上げる仕草に気を取られれば、耳を飾る大降りの耳飾りが目に入った。それが夜目にも鮮やかに彼女の剣舞にあわせ、踊るように揺れていたのを見たのはまだ記憶に新しい。
 言葉こそおかしいものの、黙って立っていれば麗しい中国美人だが、その実体は恐ろしい程のククリの使い手だ。綺麗な花には棘がある、とは母国のことわざだが、そもそもこの地ロアナプラには棘がない花などない。
 既にビジネス上でのつきあいは終わっている筈だ。だというのに、何故彼女はここにいるのか。金の請求を何故自分にしてくるのか? ロックは目を白黒させ、慌ててソファーで肘掛けを頭にし横になりくつろぐ同僚を振り返った。
「レ、レヴィ!?」
「いっただろ? かかった経費はお前の給料から天引きだって」